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高松高等裁判所 昭和24年(ネ)89号 判決 1949年12月12日

控訴人

河本太郞

被控訴人

愛媛県知事

主文

原判決は取り消す。

被控訴人が昭和二十三年十一月二十日農則第一〇二六号を以てなした昭和二十二年十月二日発行の買収令書小野四〇号に関する農地買収取消処分はこれを取消す。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

請求の趣旨

主文同旨

事実

当事者双方の事実上の陳述は、

控訴代理人において控訴人の三男河本武夫が昭和二十一年二月八日分家したことは争わない。被控訴人が取消した控訴人に対する農地買收は控訴人の小作地としての買収申出に基き小作地として買收せられたものである。元来小野村の第三次農地買収計画に当り自作地の買収を申出た例は一件もなく控訴人においても自作地の買収を申出たことはない。従て右買収には被控訴人の主張する樣な錯誤に基くかしはない。農地買収は買収令書の交付にあり確定するものと解すべきものであるから特別の違法処分でない限り下当処分の理由で相手方の不服をまたず行政官庁自らみだりにこれを取消すべきものでない。まして控訴人は昭和二十二年十月以来第四次農地買収に対し異議や訴願の方法によりその違法と主張しその都度河本武夫の耕作地が問題となつたのであるから若し第三次農地買収につき被控訴人の主張する樣な錯誤があつたとすればその時既に判つた筈であるのに昭和二十三年十一月二十日に至り錯誤を理由として買収の取消を主張するのは被控訴人に重大なる過失があつたものと言わねばならぬ。更に被控訴人が控訴人に対する第四次農地買収を正当化せんがため遡て第三次農地買収を取消すというに至つては徒らに法を弄ぶものというべく以上何れの点からするも本件農地買収の取消は違法であると述べた外原判決の摘示と同一であるからこれを引用する。(立証省略)

理由

被控訴人が昭和二十三年十一月二十日農地第一〇二六号を以て昭和二十二年十月二日発行の買収令書小野第四〇号に関する農地買収を取消す処分をしたことは当事者間に争いがない。控訴人は右農地買収はこれを取消すべき理由がないと主張するに対し被控訴人は右買収は小作地として買収すべきものを誤まつて自作地として買収しており錯誤に基く重大なかしがあるから買収を取消したと主張するから先ずこの点について判断をすると河本武夫が控訴人の三男であつて昭和二十一年二月八月控訴人家から分家したことは当事者間に争いなく又本件買収取消処分によつて買収を取消された田十一筆が同人の耕作地であることは被控訴人の自認するところであり以上の事実と成立に争のない甲第一号証(買収令書)及び原審証人宮内政次郞の証言の一部当審証人渡〓高義の証言当審における控訴人本人訊問の結果を総合すれば右買収は小野村農地委員会の第三次農地買収計画に基くものであり同計画においては総て土地所有者の小作地のみを対象とし買収の円滑を期すため特に所有者をしてその小作地を特定して買収方の申出をなさしめたから控訴人においても小作地として買収の申出をなし小作地として買収計画を定められたのでこれに対し何等の異議なく県農地委員会の承認を経て該計画通り小作地として買収せられたことを認むるに十分である。右認定に反する原審証人川本友一の証言は右証人渡〓高義の証言に鑑み信用し難くその他の証拠によるも右認定を覆するに足らない然らば右買収処分には被控訴人の主張する樣な錯誤に基くかしは毫も存在しないのに拘らず買収取消処分は右の樣なかしありとしてなされたものであるから違法であると言わねばならぬ。そして本訴が法定期間内に提起せられたことに本件記録に照し明らかであるから右処分の取消を求むる控訴人の請求は爾余の主張に対し一々判断するまでもなく理由ありといわなければならない。仍て民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(前田 三野 萩原)

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